サンプル1


「……あたしのこと、好きになってくれなくたって、いいのよ」


コーディリアが、ぽつりと呟く。
その声が余りにも寂しげで、切なくて。
思わず隣に座る彼女を見たら、彼女もまた、わたしを見つめていて。


「ただ、あなたが此処に残ってくれれば、それでいい」
「……どうして……?」


疑問は素直に、声に出た。


恐ろしい、第一世界の魔女。
嘲笑の末姫コーディリア。


だというのに、何故彼女はこんなにも優しい目で、わたしを見るのだろう。


「……いいのよ、あなたは知らなくて」
「……」


そして柔らかに、彼女はわたしを突き放す。
誰よりも優しく強い瞳でわたしを見るくせに、決してわたしに本当のことを話さない。


嘘のような事が溢れたこの世界で、一番嘘のような彼女の、隠していること。


それは、一体なんなのだろうか。

サンプル2


「……おもい、ださないで、ぇ」


コーディリアがぼろぼろと涙を流しながら首を振る。
オフィーリアさんは、そんな彼女を痛ましいような瞳で見て。
だけど、わたしの額からは指を離さなかった。


「だめよ、コーディリア。これは、自然なことじゃない」
「だめぇ、だめぇ……! やめてぇ、姉様、あたしはどうなってもいいから、
おねがい、その子だけは傷つけないで……!」
「……コーディ」
「その子だけなの! その子だけが、だいじなの! 
思い出したら、傷つくの! おねがい、全部、あたしの我儘でおわらせて!
お願い……お願いよ……!」


コーディリアの言葉の意味は、まったく理解できない。
だけどただ一つ、わかる事は。


彼女がわたしを心底愛し、大事に思ってくれているという、こと。


コーディリアはオフィーリアさんの足にすがりつく。


「姉様、姉様、おねがい、姉様!」
「……だめよ、コーディリア」
「ねえさま!!!」


オフィーリアさんは、首を振って。



「この子は、思い出さなければならない。


……この子の世界は、もう、ないのだと」