サンプル1


「……だって、おれは、きたない」


静かに涙を流しながら、スリプが言ったのは。
そんな、痛い、言葉。


「きたなく、ない」
「きたない。ほんとうのおれをしったら、きたないって、思う」


ぎゅうと、自分の胸の辺りを力いっぱい握り締めて、吐き出すようにスリプは言う。
それが、彼の隠している秘密の重さ。
……わたしに吐き続けた、嘘のおもさ。


「スリプ」
「やだ」
「スリプ」
「……っ、ぅ……」


柔らかな拒絶を遮って、スリプの頬を両手で包んだ。
もう、わたしたちの間に茨の壁はない。
そのまま額をくっつけて、スリプの冷たい頬に熱がうつることを、祈った。


「わたしは、あなたに愛を誓った。何があっても、変わらない愛を」
「……」
「それは、あなたも同じだと思ってた」
「……だって、きみはきれいだもの」
「スリプだって、きれい」
「きれいじゃない……きれいじゃない……おれは、おれは」


スリプの涙が、わたしの手を濡らす。
目を逸らす事は許さない。ここにいるわたしを、見て欲しくて。
あなたが好きなわたしがここにいることを、信じて欲しくて。
スリプの唇が、ゆっくりと。


「……おれは、【魔女の宝石】だったんだ……」


隠し続けた真実を、告げた。

サンプル2


「くるしくない? ……いたい?」

いたわるように、いつくしむように。
スリプがわたしの頬を撫でる。


そりゃあ、痛くないといえば嘘になる。
自分の中心に熱い楔が穿たれる感覚は、今まで経験してきた痛みとは
異なるものだから。


だけど。


「……しあわせ、だから」
「……しあわせ……」
「スリプは、ちがう?」


問いかける。わたしもまた、スリプの頬を包みながら。


まったく、おままごとのような恋かもしれない。
わたしたちはお互い余りにも幼くて。
だけど。


「……しあわせ……おれも、しあわせ」
「……うん」


スリプが強く、わたしを抱く。
わたしもその背中を、抱きしめる。
消えてしまわないように。いなくなってしまわないように。

愛しい人。おねがい、ここにいて。