サンプル1


「あらぁあ、あたしに会いにきてくれたのぉ?」


くすくすと、少女らしくない威圧感に満ちた微笑に、思わず気おされる。
だけどここで、ひくわけには行かない。


「……ええ」
「……は?」
「あなたに会いに来ました。……魔女、コーディリア」


気合負けしないように、瞳に力を込めた。
だけど魔女はといえば、ぽかんとした顔をして。


「あっ、えっ、ああ、あ、そうなの。あら」


何故だか、酷く取り乱している。
……さっきまでの威厳はどこに消えてしまったのか、その姿はまるきり普通の少女に見えた。


「そ、そうね。わざわざ会いに来たというなら、相手をしてあげない事もないわよ!」


そして。
とても嬉しそうな顔で胸を張ったものだから。


なんだか、毒気が抜かれてしまう。


恐ろしい、第一世界の魔女。
そう聞いていた。のろいをかけ、人を玩具にする、残酷なる魔女だと。
なのにどうして。


「お、お茶でも飲む? この世界には、大分慣れたかしら」


どうして、わたしにあったぐらいで。


そんなに、嬉しそうな顔を、するのか。


今のわたしには、まったく理解できなかった。

サンプル2


「調子が悪いわけではないのね?」
「は、はい。だいじょうぶ、ただの貧血で……」
「そう……」


ほっと。
心底安堵したように、そんな事を言うものだから。


「だいじょうぶ、コーディリア」


思わず、そんな言葉が出た。


コーディリアは、はっとしたように目を見開いて。


わたしはそれが怒りによるものか、それともそれ以外のものであるかは、判断しかねた。
だけど次の言葉で、それがもっと複雑な感情によるものだと、知る。


「……もっと」
「え?」
「もっと、呼んで。コーディリアって。もっと」


それは、懇願であり哀願であった。
命令の強さを持たないその声は、まさしくわたしにたいする「お願い」で。


「あなただけ……あなた、だけだから。あなただけが、あたしを……」