サンプル1


「ひっ……!」


短い悲鳴が上がる。
思わず目を丸くする。目の前の少年……少女だろうか?
ともかく小さなその人は、本気でわたしに怯え、恐れているようで。


「……あの……?」
「ご、ごめんなさ……ごめんなさ……!」


これ以上、怖がらせないように。
なるべく優しい声を出したつもりだったが、彼は細い声で謝ると、
脱兎のごとく逃げて行ってしまった。


そんなに、怖かっただろうか。
わたしは風のごとく走り去るその背中を、ただ呆然と見つめていた。

サンプル2


「……ぼくは、みにくい」


ぽつり、と。
オデットは囁くような声で、そういった。
弾かれたように隣に座ったオデットを見ると、
彼は俯いたまま膝の上でぎゅうと拳を握って。


「どうして、こんなに、みにくいのだろう。
ねえさんもにいさんも、とてもうつくしいのに。
どうしてぼくだけ、こんなにみにくいのかな」


それは、いつもの怯えたようなオデットの声とは、違った。
吐き捨てるように、忌々しいという思いを隠そうともしないで。


「オデットは、醜くなんか」
「いいの、なぐさめてくれなくて。
ぼくの醜さは、僕がいちばん知ってるんだから」
「オデット……」


わたしの言葉も。
拒絶して受け入れようとしないオデットに、苦しくなる。


オデットの中に根付く、「自分は醜い」という思い。
わたしは時折、これこそがオデットにかけられた呪いなのではないかと、思う。
成長が止まる、というものではなく。
恐ろしいのは、自分を欠片も愛することの出来ない、その心。


どれだけわたしがオデットを愛しく思っても。
それは、届かない。
自分が愛せない自分を、他人が愛するということを、受け止めてもらえるわけが、ないのだから。



オデット。可愛いオデット。



お願い、わたしをみて。
あなたを愛しく思う、わたしを。