サンプル1


「えーっと、うーん、ごめぇん、ドリスよくわかんない!」


しばらく頭を抱えていたかと思うと、けろりと笑ってそんな事をいう。
……それが、ドリスさんの【呪い】?
【愚か】で【臆病】で【心ない】という、三つの悪徳。
他の呪いと比べてわかりにくいものだったが、よく考えればそれはとても恐ろしいものだ。
だって人格すらも変えてしまうほどの、強い呪い。
本当のドリスさんは、もしかしたらもうどこにもいないのかもしれない。
ドリスさんはくるくると人差し指に髪を巻きつけながら、可愛らしく小首を傾げて見せた。


「でもぉ、魔女に逆らったりはしない方が良いと思うな。
だって魔女だよ? こわーいんだよ? 殺されちゃうよ?」
「で、でも、そうしないと、わたし……」
「大丈夫だよ! 魔女は自分の宝石を殺したりしないから!
まぁ、死んだほうがマシな目には遭うらしいけどねー」


そう言ったドリスさんは、わたしが青い顔をしているのに
気付いているのかいないのか、からからと笑った。


「いいじゃない、魔女は強いよ? 怖いけど。あははっ!」

サンプル2


「……また僕、君を傷つけるような事、言ったんだね」


かかとを打ち鳴らしたドリスさんは、はっとしたようにわたしを見ると
頭を抱えて座り込んでしまう。
あわてて駆け寄ると、彼はほんの少し泣いているようだった。


「……ごめん、本当に。記憶の共有が出来ればまだましなのに。
僕は自分が、何を言って君を傷つけたのか、わからないんだ」
「ドリスさ……」
「……もう嫌だ……こんなのは、もう、嫌だ」


宥めようとするわたしの声も、だが彼には届いていないようだった。
彼は身体を縮めて頭をかきむしると、涙の膜が張った目で、わたしを見た。


「……こんな僕じゃ、君を守ることも、許されない」


真剣な、声に言葉に。
いつものドリスさんとは違う、その表情に。


思わず、息を呑んだ。


ドリスさんは、自嘲気味な笑顔を浮かべて。


「ただでさえ、この体は弱いのに。
ただでさえ、この心は脆いのに。
今の僕のどこに、君の側にいたいと……望む資格が、あるんだろう」