サンプル1


「僕を選んでくれるの……?」


ドリスの瞳は、ゆらゆら揺れている。
この期に及んで、そんな事を言う、と、わたしは少しおかしくなった。


「ドリスがいい。……わたしは、ドリスを選ぶ」
「……ああ」


感極まったように囁いて、ドリスの唇が首筋に寄せられた。
強く吸われて、赤い痣が咲く。いくつも、いくつも。
所有を、示すように。


「あいしてる。きみだけが、僕を満たす」


睦言は熱を帯びて。
いつものドリスの、どこか道化めいた軽薄さはなりを潜めて。
普段より幾分低い声が耳をくすぐって、おもわず目を閉じた。

サンプル2


「ちょっ……まって、違うわ」


戸惑ったようなコーディリアに、わたしの方が戸惑ってしまう。
……なにが、違う?


わたしは、のろいを解くためにドリスを選んだ。
たった一人を選んだわたしは、ここに残ることを条件に、
魔女の遊びから解放される。
そのはずなのに。


「嘘をついたの……!?」
「そんなわけがない! 魔女が契約の際に嘘をつく事は、許されない!
そうじゃない! そうじゃなくて……!」


困惑したような魔女は、その細い指を微かに震わせて、ドリスをさして。


「あたし、そんな奴に呪いかけてない!! そいつは【王子】じゃない!」


そう、言って。


魔女の言っている事が、理解できなかった。
背後から響いてくる笑い声が、ドリスのものだと理解するのに、
しばし時間がかかって。


後ろから腕が伸びてくる。抱きしめられる。


昨日まではあんなにも愛しかった腕が、どうしてこんなに冷たいのだろう。


「……魔女が選んだ、【絶対姫君】は、さすがに美味しかったよ」


その声は、ひどく、たのしげだった。