サンプル1



「……俺はお前に、隠していることなど一つもない」
かぐやさんの声は、ひどく静かだった。
荒れ狂うわたしの心を静めるように、ただ、ただ優しく。


「信じろとは言わない。だが、俺はお前に嘘は吐かない。
今までもこれからも」


訥々と紡がれる、言葉に。
いつのまにか、わたしの頬には涙が伝っていた。


かぐやさんは、わたしに、嘘を吐かない。


その言葉が、じんわりと胸に染み渡る。


この嘘にまみれた世界で、ただ一人。
あなただけ、信じられる。


サンプル2


「ばか、しがみつくな」
「だっ、て……!」


かぐやさんのくびねっこにしがみついて、離れようとしないわたしに呆れたのだろう。
苦笑交じりの声に、頬が赤く染まるのがわかる。
わたしを膝の上に乗せたまま、器用に制服を脱がしていた指が、宥めるようにあたまを撫でる。


「おい」
「は、はなれたら、見える、から」
「……見えないほうが、困るんだが」
「ひぇっ!?」


つぅと空いている方の指が、あらわになった背中を撫でる。
思わず変な声が出て、かぐやさんが笑った気配がする。


「や、やめてください!」
「やめるか?」
「……っ」


からかうように返されて、思わず言葉に詰まる。
やめるか、って。
この期に及んで、そんな事を言うなんて。


むきになったわたしは、身体を離して正面からかぐやさんをみる。
そして、少し驚いたように開いた唇に、自分のそれを軽く重ねた。


「……」
「……やめ、ない」


意を決したその言葉に、かぐやさんはかすかに笑って。


「……んっ」


今度は、かぐやさんから。
目を細めて微笑んだかぐやさんは、わたしの頬を撫でながら。


「……好きだ」