サンプル1


「……そうか、貴様が呪いの原因か」


御簾の向こうから聞こえてきたのは、涼やかな男の人の声だった。
しかし、そこに含まれた感情は決して涼しいものではなく……。


「えっと……」
「人をこんな状態にしておいて、よくものうのうと顔を出せたものだな」


その、あからさまな敵意に思わず声も止まる。
怒っている。……魔女ではなく、わたしに対してだ。


「……どうせ、自分も被害者だとでも、おもっているのだろう」
「そ、んな」


それは思考を見透かしたようなタイミングだった。
そう。
巻き込まれた人たちには申し訳ない気持ちもあるけれど、
間違いなく、わたしも巻き込まれた側だという気持ちがある。


御簾の向こう側の人は、そんなわたしを冷酷に断罪した。


「いいか。貴様一人が大人しく、魔女の玩具になっていれば、
それですんだのだ。他の誰も、こんな目に遭う事もなく。
お前は自分が逃れたい一心で、俺たちを売ったんだ」


サンプル2


「仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、龍の首の珠、燕の産んだ子安貝……」


かぐやさんの長い指が、わたしの髪を掬い取った。
まったく退屈そうな表情なのに、瞳だけが煌々と輝いていた。


「結婚のための無理難題、か」

呟いて、かぐやさんは忌々しげな顔をした。


「まったく、俺は会おうとするだけで無理難題だというのに」
「……ごめんなさい」


不機嫌そうな声に、思わず謝罪が出た。
この呪いは、わたしのせい。最早それを否定する気もない。


かぐやさんは一瞬目を見開くと、不機嫌なため息をついて乱暴にわたしの頭を撫でた。


「そう思うなら、少しは褒美が欲しいものだ」
「え?」
「何も言ってない」


なにもいってないこと、ないとおもうのだけど……。
不満が顔に出ていたのだろう。かぐやさんはわたしをみるとふっと表情を緩めて。


「……まぁ。この呪いが、お前に苦難を強いるものでなかっただけ、よかったと思おう」