サンプル1


「ぴぃぴぃわめくなよ、うざったいなぁ……」


その、声は。
今までのリーエさんとは、まったく別人のように。


「せっかく呪いがとけたってのに、まさかまた魔法で縛られるはめになるとはな……」
「リーエ、さん」
「様って呼べよ。人間風情が、なれなれしいんだよ」


言葉と同時に、強く突き飛ばされた。
固い床にしたたか身体を打ち付けて、わたしは呆然と豹変したリーエさんを見上げる。
現実に、思考が付いていかなかった。
リーエさんは、忌々しげに舌打ちをして。


「嫌いなんだよ、人間は。……だけどそれが契約だというなら、仕方ない」
「……え……」
「お前以外に女が作れないなら、お前を使うしかないだろうが」


言葉と、わたしの胸倉を掴んだリーエさんが、そのままブラウスを引き裂いたのは、同時だった。
ひっ、と引きつった声が出る。だけどそれ以上の抵抗は許されなかった。


「俺、わめかれるの嫌いだから」


そういって、なんの躊躇いもなく、わたしの口に裂いたブラウスの一部を詰め込んで。
頭上で手を一まとめに拘束すると、なんの遠慮も躊躇もなく、空いた手でわたしの身体に触れた。


「マーレイの血を絶やすわけにはいかないからな。人間なんて産むなよ」



サンプル2


「お前はバカじゃないのか」


呆れたようにいうリーエさんに、わたしは「そうかもしれません」と静かに答えた。
リーエさんは毒気を抜かれたようで、溜息をつくとそのままわたしの膝に頭を寝かせた。


「俺は人間なんて愛さないからな」
「ええ、リーエさん」
「……人間なんて、人魚を狩ることしか考えちゃいない。
低俗な生き物なんだからな」
「……わたしも、人魚になりたい」


膝枕の上のリーエさんの頭を撫でながら、ぽつりと呟く。
すると手をつかまれて、強く睨まれた。


「おい、バカなこと考えるなよ」
「だって」
「人魚が人間になるにも、代償が必要なんだ。
逆も同じだってどうしてわからない。
声で済めばまだマシな方で、目を奪われた奴だっているんだぞ」


お前は本当におろかだな、と。
告げる声は、だけどどこか優しくて。


つかまれた手から、この想いが伝わればいいのに、と。
思わず願わずには、いられなかった。