背後に浮かんだ魔女が、わたしの顔を無理やり正面に向かせた。
力は決して強くないのに、抗えない。
目の前に、5人が倒れているのが見える。
魔女の声が、ひどく近くにあった。
「ほれ、死んだ。そなたのために争い、しんだぞ?」
「い、やぁ」
「日ノ一桃夜は死んだ。
木豆雀は死んだ。
笛口葉介は死んだ。
藁長幸成は死んだ。
靴木音々は死んだ」
「あぁああああああああああ!!」
自分の悲鳴が、自分のものじゃないようだった。
全身が震えて力が出ない。もはや立ってもいられないほどなのに、魔女の力なのか、わたしは立っている。
「そなたの力を、目覚めさせようぞ」
「あ、ぁあ……」
「この結末を、変えたいのであろう?」
それは、甘美な誘いだった。
この結末を、変えられる?
どういうことだろう。
5人が、死んだという、この事実を覆すことが出来るというの?
「姫君よ」
「その呼び方、やめてよ」
「ふん。ならそなたも、わらわを名前で呼ぶことじゃな」
ふわん、とわたしのまわりをふわふわ漂っていた魔女はぷくんと頬を膨らませた。
その顔は幼げで、なんだかまるで彼女が普通の少女に見えた。
わたしは思わず表情を緩ませた。
「……エウレカ?」
「えっ」
名を、呼んだ。
自分で呼べといったくせに、その瞬間に彼女は驚いたように目を丸くして。
「ぎゃんっ!」
「きゃあっ!」
ぼとり、と、宙から落ちた。
座っているわたしの肩程度の高さとはいえ、落ちたら痛いに違いない。
案の定魔女は涙目になって顔をこすっている。
「ああ、大丈夫? どうしたの?」
「な、なんでもないのじゃ。びっくりしてしまっただけなのじゃ……」
「名前で、呼ばれるのが?」
彼女はしばしの間のあと、こくり、と頷いた。