私に片割れはおりませんが
もしもただひとにも魂の片割れがいるのならば
ああ、あなたがそうだったらどんなにか良いでしょう
ふたりでひとつにとけあって、愛しさだけを抱えて
ああ、あなたをさらってしまいたい
どうかその微笑を、私だけに






ユミル・リニャス。アテム人の少女でソールタ歴622年誕生、同歴年640没。享年18。
歴史で二人目の【賽持つ姫君】で、神涙時代より更に後に生まれた【神に愛されし人間】です。
この後ソールタ歴1174年に【救世の乙女】が生まれるまで【神に愛されし人間】は生まれず、
その間は500年以上。過去それほどに間隔があいた事はなく、もはや【神に愛されし人間】は
伝承と化そうとしていました。



西にあるアテムという小国に生まれたユミルは、生まれたときより珠を持っていました。
故に彼女は【賽持つ姫君】と呼ばれていました。
その力は己で制御できぬものなので、周りの人間も彼女自身も、
どう力を使って良いかわかりません。
けれど【神に愛されし人間】、アテムの王は彼女と家族を城に招き、親しく付き合っておりました。
アテムは小さいけれど豊かな国です。王は優しく穏健、そして王の一族も同様でした。
ユミルは王族の皆が大好きでした。その中でも特に、王の一人娘であるエミル姫が大好きでした。
まるで双子のように似た名を持った二人。性格も見た目もまったく違いましたが、二人はすぐに
仲良くなりました。
エミル姫はユミルより4つ年上。出逢った時は12歳。
エミル姫は王と同じく優しく穏やかで、慈悲深く優しく、国民にも愛された王女でした。
ユミルは年を経るごとにエミル姫を好きになり、深い深い愛を抱くようになりました。
ユミルは国が大好きでした。王女が大好きでした。
なので彼女が10歳のとき、ユミルは珠に祈りました。
どうかこの国に、もっとたくさんの幸せを。
ユミルの願いは偶然でしょうか、でもしかし叶いました。
アテムから貴重な魔石が発掘され、アテムは大いなる発展を遂げたのです。
国はますます豊かになりました。ユミルもエミル姫と過ごす時間が増えました。
しかし幸せは長くは続きませんでした。
隣国が攻めてきたのです。隣国もまた小さな国でしたが、
アテムには軍備がほとんどありません。
軍備にまわすくらいならと、王は医療や福祉にお金を使っていたからです。
アテムの人々は必死に戦いましたが、どんどん倒れていきました。
あわやや王都まで攻め込まれそうになったとき、ユミルは再び祈りました。
すると奇跡が起きました。大国であるキンヅェが、
同盟を理由に隣国を討ってくれたのです。
あわれ隣国は、国としては存続できなくなり、都市となりました。
ユミルは確信しました。【珠】は自分の願いを叶えてくれるのだと。
最初の【賽持つ姫君】は制御できなくても、自分はこの力を望むままに使えるのだと。
ユミルはあと一回の力を大事に大事にしました。そして月日は流れ、ユミルは17歳、
エミル姫は21歳になっていました。
しかしそのとき、また新たな問題が起こりました。
ある二つの国の王から、エミル姫は同時に求婚されました。
心優しいエミル姫、断る事が出来ない間に二つの国は戦争を始めてしまいました。
毎日毎日嘆き暮らすエミル姫に、ユミルは心を痛めました。
けれどエミル姫がどちらかの求婚を受け入れ、
他国に行ってしまうのはもっと嫌でした。



「エミル様、泣かないで。エミル様のせいじゃありません」
「いいえユミル、全てはわたしのせい。わたしのせいで血が流れる。
もはやどちらを選んでも戦争は収まらない」
「エミル様、違います、違います。ああ、どうか笑ってください、ユミルはエミル様の笑顔が好き」



あまりにも姫の嘆きが深いので、ユミルはある決意をしました。
泣いているエミル姫に、自分の珠を掲げます。



「エミル様、ユミルがこの戦乱を収めて見せます」
「ユミル?」
「エミル様、そうしたらユミルをエミル様の一番にしてくださいますか?」



ユミルは信じておりました。そして驕っておりました。神力は自分のものであると。
さいころの眼が、たまたま続いて6が出たからと言って、次も6が出るとは限らないのに。
ユミルは祈ります。珠は輝きます。そして。



「……エミル姫様?」



目の前のエミル姫の身体が傾ぎます。
ユミルが慌てて受け止めたとき、姫はもう事切れておりました。




それから。姫が死んだことで戦乱は終わり。
三度の祈りを終えた珠は砕け散り。
最愛の姫を失ったユミルは、18の誕生日の日に自分の命を絶ちました。
ユミルはもはや、ただびととなっておりました。
彼女の自死を止めるものは、もはや何もなかったのです。





どうかわたしに断罪を
どうか神に、死を